2024 05,19 12:22 |
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2009 12,17 10:53 |
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新刊『Denphalae』を発行するに当たり、設定や過去の話がなきゃワカランだろと思いましたので、急遽ココにのっけます。 本自体は完売・・・というか完配?しているので(『危ない!増田先生』という題名で配布したアレです) あ、ただし設定を使っているのは後半部分のギャグの方で、シリアスの方じゃないです。 で、何であらすじだけにしないのかというと。 ・・・・・・・・あらすじやらなんやらを書くのがごっつう苦手なのです。字書きあるまじき奴でスミマセンあとで吊ってきます。 では、ご興味のある方のみどうぞ~ 「はい!お疲れ様でした~エキストラの皆さんはこれで解散でーす」
ADの声と共に、先程までいきり立っていた周囲が、何事もなかったかのようにワラワラと出口へと向かう。
頬についた泥を手の甲で拭いながら、その俺もまた後に続いた。
「5時間拘束されて、ギャラが二千円…か」
今時高校生のアルバイトでも、この倍は貰っている。
台詞も一言だがあったし、普段のその他大勢に比べれば今回の仕事はまだマシな部類に入るのだが、こんな調子ではいつまで経ってもアルバイト生活から抜け出せそうになかった。労働基準法ってなんだっけ…と、最近そんなことを考えてしまう辺り、追い詰められてるなあと思う。
「せめてバイトと同等くらい稼げれば、もう少しマシな生活が遅れるんだが」
残念ながら、素晴らしい演技力を持っているわけでもなく、全国に溢れている役者の卵の一人に過ぎない身では、エキストラや端役の端役を貰うので精一杯で、せいぜい日々の小遣いを稼ぐくらいしか出来ていない。それでも他に比べ、容姿が整っている分まだマシな方だと周囲は言うが、この世界で顔の善し悪しなど、演技力が備わっていなければ微々たるものに過ぎないだろう。そこから脱っするために日々稽古をして仕事をしてとやっていると、どうしてもアルバイトに割ける時間は限られてくる。となると、結果として一月に稼げる金額などたかがしれていて。
齢23歳にして、今だ六畳一間風呂無しのボロアパートから抜け出せないでいた。
役者の世界に飛び込んだのは、18歳のとき。
天涯孤独で施設育ちだった俺には、当然大学に入学するなんて選択肢はなかった。 いや、正確にはやる気を出せば奨学金で入れなくもなかったが、大学という場所にそれほど夢も憧れも抱いていなかった俺は、周囲の反感を食らうくらい、いとも簡単に学業の道を蹴った。
で、次にどうするかと考えて……学生時代何度か舞台に立った経験があり、それが存外楽しかったことと、生まれ持った舞台映えする容姿とそこそこの演技力を考慮した末、役者の道を選んだのだが。
「やはり、見誤ったかな……」
茨の道という自覚はあった。
それでもやっていける自信はあったのだ―――その時は。
周囲は多少驚きを見せたものの、止める奴は誰一人いなかった。今考えれば、単にライバルは一人でもいない方が良いという、打算的な考えがあったからだろうが、とにかくその時の自分はかけらも不安を抱かなかった。成功する保証など何処にもないのに、何故あそこまで思い込めたのか我ながら不思議でならないが、そういった経緯を経て、俺は役者の道を選んだ。
しかし現実は厳しいもので、五年経過した今でも卵は卵のまま、雛にかえる兆しすらない。
「そろそろ潮時だろうか…」
頭も要領も悪くはないから、今からでも就職は可能だろう。前々からうちの会社に来ないか?と誘ってくる友人もいる。少し前まではそんな申し出など鼻で笑っていたが、今は安定した収入という点で心惹かれている自分がいて。
それだけ、今の生活に限界を感じているのだ。
「……とりあえず、さっさと帰るか」
駄目だ。腹が減っていると、どうにも思考がネガティブな方向へ陥りがちだ。
なんだかんだと身体は疲れているが、外食なんて贅沢は到底許されない身分。せいぜい弁当チェーンの一番安いのり弁当を買うか、部屋の隅に山積みされたインスタント食品で腹を満たすのが精一杯なのだが、それでも食べれるだけマシ、と自己暗示をかけながらスタジオの裏口から出ると。
「ロイ・マスタング?」
出入口から三歩も進まないうちに、呼び止められた。
正直、腹が減っているし、心底疲れている。
出来ることなら呼び声を無視して帰途に着きたいところなのだが、悲しいかな役者の性で、すぐさま反応してしまった。
「はい、そうですけど」
「……ふ~ん、」
相手は『不躾』という言葉を己の辞書に刻み込んでいないのか、目深に被られた帽子とブラウンのサングラス越しに、まるで品定めをするかのようにジロジロと上から下まで眺め始めた。
「……映像より、本人の方が良い男だな」
「それは、どうも…」
褒められて嬉しくない訳ではない。
嬉しくない訳ではないが……こうも初対面であからさまにジロジロと見られて良い気分はしない。
「俺、まどろっこしいのは苦手だから、単刀直入に言わせてもらうけど」
「?…はぁ」
何でもいいかさっさと終わらせてくれ。
腹が減りすぎてなんだか気持ちが悪くなってきたんだが。
「お前、俺の相手役にならねぇ?」
「ハ?」
予想外の申し出に、思考が停止する。
あれだけ空腹を訴えていた腹でさえ、一瞬形を潜めた。
えーと、これはあれか?
俗に言うスカウトっていう(少し違う気もするが)…
「なっかなか今度の相手役の男優が見つからなくてさぁ。お前演技はまだまだだけど、磨けば絶対イケると思うんだよね!」
若干興奮しているのか、ツバの陰になっているホクロ一つ無い円やかな頬が、高揚してほんのりとピンク色に染まっている。
逆に俺といえば、相手のテンションについていけないというか、イマイチ状況が把握できなくて、目前の少年(だよな?)をぼんやりと見つめているだけだった。
「まぁつ~わけでお前を見た瞬間これだっ!!って思ったんだけど…って、オイ聞いてんのか?」
「え~と、四割方は」
「んだよ、半分も聞いてねぇってことじゃねぇかよ!人が珍しく褒めてやってるってのに。年下のクセして先輩の言葉を聞かねぇとは…」
「は…?」
何か今、重要な証言が耳を光速で駆け抜けて行ったような気が……
「しかも10歳だぞ?普通はもっとこう…、」
「あの、」
「あ?」
「誰が、」
「誰がって、俺以外の誰がココにいるんだよ」
変なヤツだなとばかりに小首を傾げるその姿は中学生、どう多く見積もっても高校生くらいにしか見えない外見なワケで。
なにより、胸に届くか届かないかの身長しか無いこの人が俺より10歳も年上なんてそんなこと、天地がひっくり返ったって信じられるわけが……。
「……オイ、今俺に大してものすごく失礼つーか禁句を思っただろ?」
サングラス越しに僅かに見える大きな瞳に睨み付けられ、その感の鋭さと予想外に強い目力に、内心圧倒されたが、表面上は何事も無いように振る舞った。
「……いや別に」
「じゃあなんだ今の間は」
ますます眼光を鋭くする相手に、動揺を悟られないように肩を竦めておどけて見せる。
「……身に覚えの無いことを言われたんで、なんだろうと考えていただけです」
本当は心当たりが有りまくるのだが、外見上はおくびも見せない。
少しでも見せたら最後、ボコられる予感がしたからだ。
「―――オマエ、むかつく奴だな」
完全に白を切る気満々だと悟ったのか、少しだけ怒りの色を収めてくれた相手に、ニッコリと笑い返す。
「何故かよく言われます」
気持ちはわからなくもないが。
「まあ、そんだけ度胸が座ってりゃ、俺の相手役にますますピッタリだな」
「えーとあの、つかぬ事をお聞きしますが」
あれだけ殺気立って年上を主張していたのだから、彼の言っていることは真実なのだろうと判断した俺は、目上の人間に対する最低限の礼儀として、敬語で話すことにした。
「あ?なんだよ」
「その相手役とは…一体、」
とりあえず今一番の疑問を聞き出そうとすると、少年のような年上の青年はパチクリと音がしそうなくらい、大きな瞳を二度瞬きしてから。
「…お前、俺が誰だか気づいてなかったんだ」
物凄く意外そうな声を上げて驚きをあらわにした。
「残念ながら、それだけ重装備では判りません」
帽子から僅かに零れる束で金色の髪ということは辛うじてわかるが、瞳の色はサングラスで隠れているし、顔立ちだって口元しか見えないのでは判断の仕様がない。
すると彼は自分の格好を思い出したのか、ああと頷く。
「こうしないとマネージャーが煩くてさ~俺的には変装しなくてもいいって思うんだけど、まぁウザイと言えばウザイしな」
「ファン、ですか?」
「あーつ~か、ストーカー?みたいな」
俺、何故か変なやつに好かれるんだよねー。
そう言って笑う少年(……いや俺より年上なのだから立派な青年か)に、そんなコアなファンが付くほどの人だったのか、と内心驚く。
もしかして、気付けなかったのはかなり失礼だったのだろうか。しかしこれだけ外見が隠されていれば、よほどファンでも無い限り判らないだろう。
「んじゃ、改めて自己紹介な。俺はエドワード・エルリック、もちろん芸名だけどな」
あ、でも名前はまんま。苗字だけ別なと笑う。
「……エドワード・エルリック?」
ん?なにか聞き覚えがあるような無いような……
「あれ、しらねえ?業界じゃ結構有名なんだけど」
俺もまだまだだなーと小さく呟きながら、深く被った帽子を脱ぎ、サングラスを外す。サラリと金色の髪が零れ落ち、華奢な肩を覆い隠した。
そして、隔たるものを無くした大きな瞳……見事な琥珀の瞳が。
「!………っ」
目の前に立つ俺の胸を、一瞬にして――射抜いた。
思い出した。
エドワード・エルリック。
業界の中でも異質と呼ばれた天才俳優。
飛び切りの演技力を持ちながら、何故か専門としているのは……
「って、もしかして貴方の相手役ってことは…」
「うん、そう。AV」
サラッと爽やかな笑顔付きで肯定されてしまい、愕然とする。
そうなのだ。
エドワード・エルリックが天才俳優と言われながらも異質と呼ばれている最大の所以。
―― 彼は、女ではなく男を相手にする、男専門のAV俳優だった。
ギャグです。紛うとこなきギャグです(笑) PR |
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