2024 05,19 10:11 |
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2009 01,13 10:30 |
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いい加減新刊出さないとマジで見放されてしまうっっ!!!
……と、一種危機感を感じたので、此処で発行できるまでちまちまと連載します(ガタガタ) 久々のシリアスです。 今回のお題は『大人な余裕のある大佐を書こう!』です(笑) 原作設定で少し長めの話を書くのは久しぶりなのでドキドキですが、頑張ります。 うん、いい加減発行しないと表紙描いてくれた卯月に殺される(ブルブル) 少なくとも3年は放置されてしまっていたネタなので、腐っていないことを願う。 それでは、下のリンクからどうぞ~ Trauma-1- 『あの人がね、久しぶりに笑ってくれたの』
血のように赤い夕日を背に、彼女は天使のような笑顔を浮かべた。
何かを切り裂くような音が、ドアを隔てた廊下の向こうから響いた。
とある午後の一時。
三週間ぶりに訪れた東方司令部。
自分の後見人であり、直属の上司でもあるロイ・マスタング大佐の執務室で、恒例のお茶を御馳走になっていたエドワードは、その音に何事かと顔を上げた。
「……なんだ?」
思わず問い掛けるようにロイの方を見ると、音の正体に心当たりがあるのか、珍しく苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。
それに首を傾げてもう一度ロイに問うと、今度は苦笑と共に「すまないが少し待っていてくれ」と言い残し、足早にドアの向こうへと消えていった。
残されたのはエドワードと、二つ用意されていた飲みかけの紅茶だけ。
いつものような調子で待てと言われていたら間違い無くついていったのだが、普段感情を表さないロイが、あんな表情を浮かべていた事が気になってしばらくは素直に従い、そこに留まっていた。しかし、ものの十分もしないうちにその状況に厭きたのか、エドワードは別に来るなとは言われなかったし~と軽い気持ちで立ち上がると、そっとドアを開けて音の聞こえた方向へと向かった。
“ っ …… ! ”
(なんだ?)
再び聴こえてきたさっきと同じような音に、エドワードは歩きながら眉を顰める。
高い、悲鳴のような音。
こんな軍部の建物内ではまず聴こえない、まるで獣の鳴き声のような音。
それは廊下を進むにつれ大きくなり、正面玄関まで後少しというところまで近付いて、その音が女の叫び声だという事にようやく気付いた。
「中佐っ!!メイフィスが帰ってこないの!!貴方が此処にいるという事はもう戦いは終わったのでしょう?なのに何故家に帰って来ないの!!!!」
「!? っ、」
その追い詰められた獣の鳴き声のような声に驚いたエドワードは、咄嗟に物陰に身を隠した。
何故だか判らないけれど、不可解な恐怖を感じたのだ。
必死の形相でロイに掴みかからんばかりに詰め寄る女は、声帯がいかれるんじゃないかと思うくらいの声を張り上げていた。
身形をそれなりすればかなりの美人に入るだろうに、所々破れたオフホワイトのワンピースに身を包み、腰に届くほどの長い赤毛の髪を振り乱して虚ろな瞳でロイを見上げている。
そんな彼女をロイはしばらく無表情のまま見つめていたが、やがて小さな溜息を吐くと、重い口を開いた。
「ライラさん。ストーンズ少尉ならば、先ほど残務処理で帰りが遅れると連絡がありました。我々の部隊は最前線にいたので負傷者も多かったため、作戦終了後、間も無くこちらに送還されましたが、情報部隊及び後方部隊は、まだ残務処理があるのですよ」
「そう…なの?メイフィスは無事、なの……ね?」
二人がかりで彼女を押さえつけていたにもかかわらずその手を払い除け、目の前に立つロイの身体に縋りつく。慌てて取り押さえようとした憲兵をロイは視線だけで制し、これ以上興奮させないようにとでも思ったのか、優しげな表情を浮かべた。
「当然です。こちらも色々と業務がありましたもので……ご家族への報告が遅くなって申し訳ありませんでした。少なくとも後二週間もすれば、貴女の元に戻られると思いますよ?」
ガリガリにやせ細った両肩にそっと手を置き、「お詫びに貴女の家まで送らせましょう」とさり気なく出口へと下し、事情が把握し切れていないのか、今だ戸惑いを隠せずにいる憲兵の一人に、当たり前のように車を用意するよう告げた。
ロイのその言葉と態度に、ライラと呼ばれた女性はようやく落ち着きを取り戻したのか、震える両手を静かに下ろした。
「そう…よね。三日前にだって、手紙をくれたんだものね」
だから大丈夫なのよね……と、どこか夢見がちに呟く。それはある種狂気にも似た雰囲気を醸し出していて、エドワードは物陰からそっと覗き見ながら、一人背筋を凍らせた。
(なん…だ、あれ……)
明らかに女性がおかしい事には誰もが気付いているはずなのに、憲兵以外はいたって平静を保っているのが、信じられなかった。
ロイの周囲を固めている者達は、気さくで親しみ易いメンバーばかりだから、いつもなら過ぎるくらい反応を返してくれるのに、何故か皆揃って無表情を決め込み、事の成り行きをただ静かに見守っている。
「ストーンズ少尉が貴女を残してどこかに行く筈が無いでしょう。貴女にベタ惚れなのですから」
ついこの間も惚気られましたよ、と笑みを浮かべるが、その笑いは見る者が見れば一目で判る位の作り笑いで、しかし女はそれに対し何の疑問も抱かずに笑みを返した。
「そう、です…よ、ね。すみません、こんな場所に突然来てしまって…私、メイフィスが死んだって聞かされる『夢』を、見て…それで…っ」
再び全身を震わせ始めるライラを、ロイはあくまで冷静な口調で宥める。
「貴女が不安がるのも無理はありません。こちらとしても兵士のご家族のお気持ちは重々理解しておりますので、どうぞお気になさらずに。さぁ、」
車の用意が出来ましたので…と程なくして玄関に横付けされた軍用車にエスコートすると、彼女は覚束無い足取りでそれに従った。
ライラを乗り込ませ、静かにドアを閉めると、心得ていたかのように直ぐに車が発進する。それを無表情のまま見えなくなるまで見送ると、ロイはようやく深い溜息を吐いた。
その姿を見て、隠れていたエドワードもやっと詰めていた息を静かに吐き出す。しかし緊張のためか身体が強張ってしまって、直ぐに動き出せそうになかった。
「…で、鋼の。お前はいつまでそこに隠れているつもりかね?」
「!?……っ」
思うように動かない身体に四苦八苦しているうちに近付いてきていたのか、自分の直ぐ傍にロイが立っていて、エドワードは身体をビクつかせた。
「私は、部屋で待っているように言った筈だが?」
見下ろしたまま指摘され、エドワードは二の句が告げなくなる。普段だったら悪態の一つも吐ける所なのだが、状況が状況なだけにそれすらも出来なくて、蛇に睨まれた蛙の如く身体を強張らせたまま無言でロイを見上げた。
そんなエドワードの様子にロイはクスリと喉奥で笑い、そっと伸ばした手で金色の髪に触れる。
本来は艶やかな手触りをくれるであろう髪は、長年に渡る過酷な旅のせいで、すっかり痛んでいた。
「とにかく戻ろう、話はその後だ」PR |
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