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2008 04,14 15:39 |
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2月のオンリーで無料配布していたもの。 ※この話は以前発行した『天使と少年』設定を踏まえた上で作成されております。当サークル読者でない方にはとっても優しくない無料配布ですので、知らない方はまず旧NOVELに格納されている『天使と少年』をお読みになってからこちらをお読み下さい。
俺の家には、小さな猫と大きな猫がいる。
「う…ん、エド……、」
若干訂正。
猫のように、ひなたぼっこと昼寝をこよなく愛している同居人がいる。
今日も今日とて同居人は、南に面したリビングの床に敷かれたふかふかのラグの上で、お気に入りのクッションを枕にして、半ば相棒と化している猫を腹に乗せ、至極幸せそうな顔をして午睡を満喫していた。
季節は冬といっても、適度に暖房が利いた家の中。
窓辺に寝ていても冷たい外気に晒されているわけではないから、寒さを感じることはまずない。
むしろ柔らかく差し込む冬の日差しは、更なる眠りを誘うだろう。
それはわかる。
まだ同居人の身体が小さかった頃から、その場所はコイツの一番のお気に入りだった。
たくさんの小さなクッションに身体を預けて猫と一緒に眠る姿は、愛らしい容姿と相まって悶絶ものの可愛さで、こっそり撮影したその時の写真は、今でも大切に保管している。
―――が、今目の前で間抜け面を晒している同居人の姿は、端整な顔立ちに幼い時の面影は多少残ってはいるものの……俺よりもずっと成長した成人男性そのもので。
「詐欺だよなぁ……」
しみじみとそう思う。
最初に拾った時は小柄な子供でしかなかったのに、半年も経たないないうちにここまで立派に(それも俺よりデカく!)なるなんて、想像もしていなかった。
しかも……
「エド……好き…、」
「!?ーーっ」
コロリと寝返りを打ち、クッションに顔半分を埋めながら微笑みと共に呟かれた寝言に、カァッと頭に血が集結する。
拾った子供がいきなり成長して、いつの間にやら『恋人同士』なんて関係にまで発展しちまうなんて、普通なら絶対想像つかないってか、付いたらそれこそ恐ろしい。
だが、現実に俺の同居人……ロイは、幼い子供から立派過ぎるほどの成人男子に急成長し、これまで作ることすら考えたこともなかった俺の『恋人』の位置に、まんまと納まってしまった。
それだけでも十分驚くべきことなのに、ロイの正体は人間ではなく地上に墜とされた『天使』だというのだから、もう現実ってなんだだっけとさえ思う。
現実は小説より奇なり。
まさかそんな言葉を自分自身が実感する羽目になるとは。
『なー』
同居人が寝返りをした表紙に目が覚めてしまったのか、よたよたと幾分束縛ない足取りで猫が足元に擦り寄ってきた。
おやつか。おやつだな?お前調子いいよなこういう時だけ愛想振り撒きやがってってかウチで飼ってる訳でもないのに何で我が物顔で此処に居るんだよ。しかも何でウチにはそのおやつとなるべく煮干とか削り節が常備されてんだよホンットにもう!
「・・・・・・・・・。」
と、猫に文句を言ったところで通じる筈も無く(もしかしたら判っててやっているのかもしれないが)、仕方なくいつの間にか専用になってしまった皿に少量の煮干を入れて猫の前に差し出せば、猫は当然のように皿に近付き、ウニャウニャと小さな鳴き声を上げながら食べ始めた。
「エド、おはよ…ぅ …ぐぅ、」
って、起き出した途端にクッション抱えて寝ようとするなついでに言えばまだ日中だこの無職男!!
……そう叫びたい気持ちは多々あったが、寸での所で抑える。
コイツの困ったところは、外見と中身がズレ捲ってることだ。
いくら外見がとっくに成人を迎えているように見えても、中身は年端もいかないガキと同じ。
まぁ育った環境が環境だから仕方ないとは思うけど、それにしたってもうちょっと外見に見合うように中身も成長して欲しいものだ。
「お~いロイ、寝~る~な~!おやつやんねーぞ?」
甘過ぎる物はあまり好かないようだが、だからといって嫌いというわけでもない。
コイツの最近のハマリ菓子は塩豆大福で、特に豊○庵のがお気に入りらしい。
ちなみにこのメーカー、近くに店は無い。
というか、鈍行で行ける距離にも無い。
じゃあなんで知ってるんだというと、以前店のPRとかでこの家に訪問販売に来て、ちょうど茶菓子も無かったので試しに買ってみたら、コイツが甚く気に入ってしまったのだ。
普段余り食べ物に対する執着を表さないのに、珍しいくらいに食べたい食べたいとせがむので、仕方なく気が向いた時にインターネットで通販購入している。
おかげで最近では『いつもありがとうございます』なんてコメントが書かれた手紙らしきものが同封されていた。
いや、まぁ……俺も食べてるけどさ。普通に美味いし。
―――で、今日のおやつはその塩豆大福なわけで。
「お前の好きな塩豆大福、俺が食っちまうぞ」
ポソッと、本当に小さな声でクッションを抱えて幸せそうに眠る同居人の耳元で囁いてみた。
途端、
「駄目だっっ!!!」
カッと目を見開き。
ガバリと、それはもう凄まじい勢いで同居人が起き上がった。
ナイス腹筋。伊達に普段から鍛えてないなロイ。
理由が『俺はエドを世の悪漢から守らないといけないから』ってのは大いに抗議したいが、言ったら言ったでまた煩いので放っておいている。とりあえず害にはならないし。
だが……今その力を発揮するのは止めて欲しかった。
「っ~~~~~~~、」
そう、俺はコイツの耳元で囁いていたのだ。
そいつが前触れも無く起き上がれば、当然屈んでいた俺に衝突してしまうのは避けられない未来なわけで。
悪意の無いヘッドバッドを食らった俺は叫び声を上げる余裕すらなく、へなへなとロイの上に倒れこんだ。
あー…、なんか今、目の前に星流れた。
「え、えどぉっ!?」
痛みよりも俺が自分の上に倒れこんできたことに驚いたのか、整った顔が台無しなくらい顔を崩しながら俺の身体を抱きとめる。
ああくそ、何でこんなに成長しちまったんだよ。
ちっさいロイ抱き締めるの、結構好きだったのに……
「エドッエド!大丈夫か!?」
俺をこんな状態に陥らせたお前がそれを言うんかい。
文句が言いたいが、脳震盪と痛みで声帯が反応しない。
確かにコイツが塩豆大福を気に入っていることは百も承知なのに、意地悪なことを言った俺もちょっと悪戯が過ぎたかなーとは思わなくも無いが、コレはちょっと酷…痛過ぎる。
「エド、痛いか?薬、塗る?」
なんだかなー…コイツってテンパると途端に言動幼くなるよな。
身体がデカくなってから、普通にしてる時はそれなりに大人びた口調なのに、なんでこうも落差が激しいんだか。
俯いてる俺にはロイの表情は見えないが、きっと情けなくも眉を歪めて、目に涙とか浮かべたりしているんだろう。
そう思うと、なんだか笑えてくる。
ほんの少し前まで、俺の半分くらいしかなかった小さなロイ。
いつも不安そうにして、あまり感情を出そうとしなかったロイ。
それが今はこうして、喜怒哀楽を惜しげも無く晒している。
そんな今が、どうにも嬉しい。
「……? エド?」
大丈夫か?と顔を覗き込んでくるロイの顔に、小さい頃の面影は殆ど無い。
でも、俺を見つめる瞳は、小さい頃となんら変わらなくて。
「だ~いじょうぶ…なわけねえだろこのタコッッッッ!!!」
予想通り、涙を浮かべて情けない顔をしていたロイの頭を殴りつけながら。
俺は、耐え切れなかった笑いを零した。
『俺は、エドの傍にいられて幸せだよ』
そういって笑いながら、好物の塩豆大福の粉を口端に付けたロイは。
どうしようもないくらい、小さい頃のロイと同じだった。
……頼むからもうちょっと綺麗に食べてくれ。なんか、色々夢が壊れる。
会社に塩豆大福の訪問販売が来たのでそのまま書いてしまった(汗)美味しかったです♪
2008.02.07 MW PR |
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